地方創生の未来を切り拓くきっかけになりえる、DAO(Decentralized Autonomous Organization)(「ダオ」と呼びます。)分散型自立組織を、ご存知でしょうか。
DAOは、地域課題を解決するためのきっかけになる可能性を持っている、Web3の技術・思想を取り入れた組織形態です。
既に複数の自治体で導入事例があり、地方の関係人口を増やすきっかけにもなっています。
この記事では、各地方でDAO形式のプロジェクト立ち上げを検討している方に向けてDAOの活用方法や導入するメリットやデメリット等に関して、分かりやすく解説しています。
1.地方創生DAOとは
地方創生DAO(ダオ)とは、ブロックチェーン技術を活用し、地域活性化や地方創生を目的とした分散型の組織です。
従来の縦割りの会社組織や行政組織と異なり、参加者全員がフラットに意思決定やお金の使い道に関与できます。
地方創生DAOでは、地域住民や関係者が共同でプロジェクトを立ち上げ、運営し、成果を共有することで、地域コミュニティの強化や、地域課題の解決を目指します。
1-1.DAOとは?
DAOは、スマートコントラクト(※)による自動執行機能を中心にして人々が自由な意思決定に基づいて参加し、それぞれの得意とする役割を果たすことで、プロジェクトを進めていく組織形態です。
※プログラムにより事前に取り決めたことが、自動で執行される仕組みのこと
報酬は、DAO独自のトークンやNFTによって支払われます。
DAOの価値を上げることが自身の報酬UPにも繋がるため、参加者が同じ方向を向いて物事に取り組みやすくなります。
基本的には誰でも参加可能なオープンな組織であることが多く(一部特定のNFT保有が条件になることもあります。)、意思決定の仕組みや報酬支払いも透明化されています。
1-2.地方創生DAOの仕組みと機能
地方創生DAOは、DAOの考え方を地方創生に応用した取り組みです。
その仕組みと機能を、簡潔に説明します。
2.日本の地方創生DAO事例紹介【ロールモデル】
地方創生の取り組みが日本全国で広がる中、新たな技術としてブロックチェーン技術を活用した地方創生DAOが登場しています。
ここでは、その先駆けとなる日本の地方創生DAO事例を紹介します。
- 山古志DAO(新潟県長岡市山古志村)
- 美しい村DAO(静岡県松崎町、鳥取県智頭町)
- みちのくDAO(宮城県仙台市)
- Web3タウン(岩手県紫波町)
2-1.山古志DAO
出典:仮想山古志プロジェクト
山古志DAOは、新潟県にある山古志村を再生させるための、地域活性化プロジェクトです。
山古志村は、豊かな自然と伝統文化を持つ村でありながら、2004年に発生した新潟県中越地震の影響もあり、過疎化や高齢化により人口が減少しています。
山古志村再生の手段としてNFTをデジタル住民票として発行し、デジタル住民によるDAOが組成されました。
現状、デジタル住民による様々なプロジェクトが進行中です。DAOの参加者はプロジェクトの立ち上げやプロジェクトの実行可否について投票により意思決定することができます。
※山古志DAOプロジェクトの詳細
2-2.美しい村DAO
出典:日本で最も美しい村 デジタル村民の 夜明け事業
美しい村DAOは、全国各地の美しい村々(豊かな自然環境が残されている)の再生を目指す地域活性化プロジェクトです。
このプロジェクトでは、各地の村の魅力を再発見し、それらを活用した観光事業や地域産品の開発を行っています。
美しい村DAOの特徴は、複数の村が連携してDAOを構成していることです。現時点では、2町村が参加しています。
2024年には、30町村の参加を目指しています。
※美しい村DAOプロジェクトの詳細
2-3.みちのくDAO
出典:みちのくDAO 資料
みちのくDAOは、東北地方の経済的自立を目的とした地方創生DAOです。
宮城県仙台市は、国家戦略特区として、仮想通貨(暗号資産)やDAOの規制緩和を目指す3つの提案を行いました。
提案された規制改革は、次の3点です。
- トークンに係る税務・会計基準の明確化
- DAOの法制化及び既存規制の緩和
- 投資ビークルの規制緩和
これにより、Web3.0ビジネスへの挑戦が容易になり、新たなデジタル経済圏が創出されることが期待されます。
規制改革により、ビジネスの可能性が広がることでしょう。
※みちのくDAOプロジェクトの詳細
2-4.岩手県紫波町Web3タウン
出典:Web3タウンの取組について
Web3タウンは、ブロックチェーン技術を活用した地方創生の新しい取り組みで、地域の活性化を目指しています。
地域活性化において、「人」と多様なつながりが大切です。
そのため、岩手県紫波町では、最先端のWeb3技術を駆使し、さまざまな人々との結びつきを創出する「Web3タウン」を目指します。
具体的な取り組みとしては、地域の課題解決を目指すDAOの設立や、Web3技術を活用した新しい地域通貨の発行などです。
さらに、ふるさと納税の返礼品としてデジタルアートをNFT化し、Web3技術を推進する企業を地域に誘致することも計画されています。これらの施策により、地域の活性化や新しい価値創造が期待できるでしょう。
※Web3タウンプロジェクトの詳細
3.地方創生DAOを導入する5つのメリット
地方創生DAOの導入には、地域活性化に役立つ多くのメリットがあります。
次に、その主な5つのメリットをご紹介します。
- 外部視点導入による地域資源の活用促進
- 地域外からの資金調達が可能になる
- データのオープン化と情報の非対称性の解消
- 意思決定の永続的な保存
- トークン導入によるリスクリターンの共有
3-1.地域資源の活用促進
地方創生DAOでは、地域外のメンバーも参加します。
(全世界から参加可能)自分が住んでいる地域の魅力には気付きにくいものです。地域外のメンバーによって、新しい視点がもたらされる可能性があります。
これにより、地域に眠る自然や文化などの資源が再発見され、新たな観光スポットや産業が生まれる可能性が高まります。
地域資源の活用によって、地元住民の雇用機会が増え、地域経済が活性化することが期待できるでしょう。
地域資源を活用したプロジェクトや施策が成功すれば、地域の魅力が向上し、観光客や移住者が増える可能性も考えられます。
3-2.地域外からの資金調達が可能になる
地方創生DAOを通じて、地域外(海外含む)の投資家や企業から資金を調達することが可能になります。
地域外からの資金調達が可能になることで、地域内の資金だけに頼らず、より多くの資金を活用して地域の課題解決に取り組めるようになるでしょう。
※ブロックチェーンを使うことにより、取引コスト削減及び取引過程の効率化が可能。
さらに、地域外からの資金調達によって、地域の認知度が向上し、新たなビジネスチャンスや人材の流入が期待できます。
3-3.データのオープン化と情報の非対称性の解消
地方創生DAOでは、ブロックチェーン技術を活用して取引データがオープン化されます。
これにより、情報の非対称性がなくなり、誰もが判断に際して同じ情報を持つことができます。
情報が透明化されることで、地域住民や投資家がプロジェクトや施策の進捗状況や成果を確認でき、信頼性が向上します。
3-4.意思決定の永続的な保存
ブロックチェーン技術を活用した地方創生DAOでは、意思決定や取引履歴などのデータが半永続的に保存されます。
これにより、過去の意思決定やプロジェクトの成果が後世に残り、将来の地域発展に役立てることができるでしょう。
また、データが改ざんされるリスクが低くなるため、地域の施策やプロジェクトが透明性を持って運営されることが保証されます。
3-5.トークン導入によるリスクリターンの共有
地方創生DAOでは、トークンを導入することで、参加者がリスクとリターンを共有することができます。(トークンの価値をあげることが、誰にとっても利益になるため)
トークンを通じて、地域住民や投資家が地域のプロジェクトや施策に直接関与することができ、地域の発展に対するモチベーションが高まります。
加えて、トークンの流通によって、地域内での経済活動が活性化し、地域経済の発展に寄与することが期待されます。
4.地方創生DAOを導入する3つのデメリット
地方創生の取り組みの一環として、DAOの導入が全国各地の自治体で、注目されています。
しかし、その導入にはいくつかのデメリットが存在します。
- 技術的なハードルが高い
- 法規制の不確実性
- メンバーが不安定になりがち
4-1.技術的なハードルが高い
DAOを導入するには、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトの知識が必要となります。
ブロックチェーン技術や、スマートコントラクト等の技術はまだ新しく、多くの人にとっては未知の分野です。
そのため、専門的な知識を持つ人材を確保することが難しく、技術的なハードルが高いと感じることでしょう。
※関連記事:未来を切り開く地方創生NFTの可能性と今後の展望
4-2.法規制の不確実性
DAOは、法的な存在ではないため、法規制や税制に関する不確実性が存在します。
法的リスクを懸念して、投資家や企業などが参加をためらうことがあり、地方創生への取り組みが制約される場合があります。
将来的な法規制の変更により、事業展開が困難になるリスクも考慮する必要があるでしょう。
先進的な取り組みを行っている事例として、米国『ワイオミング州』が挙げられます。
ワイオミング州は、DAOに対して法人格を認める法案を成立させ、これによりDAOが法的に認識される地位を確立しました。
日本においても今後、海外の事例をもとに徐々に導入が検討されていく予定です。
4-3.メンバーが不安定になりがち
DAOでは組織への参加、脱退が従来の組織と比較して手軽に行えます。
DAOへの参加・脱退には誰の許可もいらないため、メンバーの流動性が高くなりやすい傾向にあります。
気軽に参加や脱退ができるという特徴を持っているからこそ、DAO運営側としては如何に組織の求心力を高めるかが、大事なポイントになってくるでしょう。
5.地方創生DAOの設立方法
地方創生DAOの設立方法について、4つのステップに分けて説明します。
- 目的と目標の明確化
- ルールを定める
- メンバーの選定と役割分担
- 資金調達
5-1. 目的と目標の明確化
地方創生DAOを設立する際には、まず目的と目標を明確にすることが重要です。
地域の特性や課題を理解し、どのような取り組みを行って地域を活性化させるかを検討してください。
※但し、これは何かを達成したい場合です。DAOは、趣味の集まりにも適した組織形態です。そのような場合は、目的を決めずにゆるっと集まるのも良いでしょう。
\ 地方創生DAOはこんな目的を持つ組織におすすめ /
- 地域活性化や地域課題の解決を目指す
- 地域に閉じず外に開いたプロジェクトを目指す
- フラットな組織を作りたい
5-2.ルール作り
理想的なDAOでは、ルールがスマートコントラクトによって規定されています。
現実的には、スマートコントラクトによる自動執行で、全てを決めることは難しいです。
次のルールは、スマートコントラクトによって、規定されていることが望ましい状態です。
- お金の出入り
- 意思決定方法
- トークンやNFTの発行、償却
その他の細かいルールは、意思決定によって決められた執行者もしくは、サブDAOを作って決めて行く方式が現実的でしょう。
5-3. メンバーの選定と役割分担
DAOは、組織・プロジェクトそのものが特定の会社や個人に帰属せず、コミュニティに帰属しています。
このコミュニティに参加するための参加権として、トークンやNFTが使われます。
故にメンバー選定や役割分担も、自律的に行われることが理想です。
一方で、自然発生的にコミュニティが出来上がることは、現実的ではありません。まずは、ファウンダーとコアなメンバーが必要になります。
地方創生DAOの場合、コアメンバーは、地域のリーダーや専門家、地元住民など、多様なバックグラウンドを持つ人々で構成されることが望ましいです。
DAOの初期段階では、リーダーシップを発揮し、組織やプロジェクトを適切に進める必要があるでしょう。
リーダーが方向性を示し、参加者が共通の目標に向かって協力することで、組織は成長し、次第に自律的な運営に移行していくことができます。
DAOの発展には、初期段階でのリーダーシップと、徐々にその役割が自然発生的かつ自律的な運営に移行するプロセスが重要です。
5-4. 資金調達
地方創生DAOの設立が進んだら、NFTや独自トークンを発行し資金調達を行います。
DAOでは、発行したNFT、トークンの保有量に応じて投票権が与えられます。
つまりDAOにおける資金調達は、株式による資金調達と極めて似た性格を持ちます。
通常の株式と同じようにどの程度の資金をいつ、誰に向けて、どのように調達するのかは、極めて大事な事柄です。
専門家の助言を受けつつ、検討する必要があります。
6.地方創生DAOの運営を成功させる3つのコツ
地方創生DAOを成功させるためには、適切な運営方法や戦略が重要です。
次に、地方創生DAOを成功させるための、3つのコツをご紹介します。
- コミュニティ運営とコミュニケーション
- トークンエコノミーの構築
- 持続可能な事業モデルの確立
6-1. コミュニティ運営とコミュニケーション
地方創生DAOの運営において、コミュニティ運営とコミュニケーションが非常に重要です。
地域住民や関係者が一体となって取り組むことで、地方創生の取り組みがより効果的に進められます。
\ DAOコミュニティ運営の代表的なツール /
colony(コロニー)
colonyは、オンラインでDAOを立ち上げることができるツールです。(コーディング不要)メンバーへのインセンティブの仕組みなどを、構築することができます。
Discord(ディスコード)
Discordは、テキストチャットや音声通話、ビデオ通話ができるコミュニケーションツールです。
DAOコミュニティでは、Discordがよく使われており、チャンネル別に議論を進めたり、ミーティングを開催したりすることが可能です。
Gnosis Safe(グノシスセーフ)
DAOのお財布となるウォレット管理ツールです。複数名でのウォレット管理が、できるようになります。
Snapshot(スナップショット)
Snapshotは、オンチェーンでのガバナンストークンホルダー投票を支援するオフチェーンガバナンスツールです。
コミュニティメンバーが提案を行い、トークンホルダーが投票することで、意思決定が行われます。
上記のツールを組み合わせることで、DAOのコミュニティ運営やコミュニケーションが円滑に行われ、組織の目標に向かって効果的に進めることができます。
次に、コミュニティ運営とコミュニケーションを、円滑に行うためのポイントを示します。
6-2. トークンエコノミーの構築
トークンエコノミーは、地方創生DAOの運営において重要な役割を果たします。
DAOは、トークンやNFTを発行して資金調達を行います。
これは一見クラウドファンディングと同じように見えますが、違いはリターンとして何がもらえるかという点です。
クラウドファンディングでは、リターンとしてプロジェクトから生み出される商品(例えばエコフレンドリーなコーヒーなど)を受け取るケースが多いと思います。
DAOは、代わりにトークンやNFTを受け取ります。トークン、NFTはDAOの活動如何で価値が変動します。
この仕組みを活用して、参加者や投資家にインセンティブを提供することで、地方創生の取り組みを促進することが可能です。
トークンエコノミーを効果的に構築するためのポイントは、主に3つです。
6-3. 持続可能な事業モデルの確立
地方創生DAOの運営を長期的に継続させるためには、持続可能な事業モデルが必要です。
次に、持続可能な事業モデルを確立するための、ポイントをご紹介します。
革新的なアイデアや技術を取り入れ、地域創生の取り組みを常に進化させる。
7.地方創生DAOの将来性【今後どうなる?】
地方創生DAOは、地域の課題解決や発展に寄与する新しい形態の組織であり、その将来性は非常に大きいといえるでしょう。
今後の地方創生DAOの発展には、次のような要素が関与します。
2023年4月に自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム(「web3ホワイトペーパー 誰もがデジタル資産を利活用する時代へ」(以下「自民党WP」と言います。)が発行されました。
自民党WPの中でもDAOへの法人格付与が言及されており、DAOの活用はますます進んでいくことが予想されます。
8.地方創生DAOに関するよくあるQ&A
地方創生DAOに関する多くの質問や悩み等の中から、特に多かった内容だけに絞って、それぞれ質問形式で分かりやすくまとめました。
8-1.地方創生DAOは誰でも作れますか?
原則として、地方創生DAOは誰でも作成することができます。
ただし、DAOの運営には、技術的知識や組織運営のスキルが必要になるため、関連知識を持ったメンバーや協力者がいることが望ましいです。
地方創生DAOを設立する際には、地域住民や関係者との調整や協力も重要です。
8-2.地方創生DAOはどのような業界や分野で活用できますか?
地方創生DAOは、さまざまな業界や分野で活用することが可能です。
たとえば、次のような業界や分野が挙げられます。
- 観光業
- 地域産業の振興
- エネルギー分野
- 農業
- 教育
- 地域イベントの企画など
地域発展や地方創生に関わる様々なプロジェクトで、活用可能です。
8-3.地方創生DAOで使われるトークンは、どのような価値がありますか?
地方創生DAOで使われるトークンは、主に次のような価値があります。
トークンの価値は、地方創生DAOの運営方針やプロジェクトの成功によって変動します。
そのため、トークン保有者は適切なリスク管理を行い、参加する地方創生DAOやプロジェクトを慎重に選択することが重要です。